2009年3月7日土曜日

僕には最後の空かもしれない



一番好きな映画は?と、もし問われることがあれば、これからも「恋する惑星」だと言うだろう。
もちろんゴダールやフェリーニやデプレシャンの作品の方が魅力的であったり真実であったりするのだが、
この映画の中の、金城武が誕生日の朝にグラウンドを疾走するするシーンや、ポケットベルを金網にさして去ろうとしたら鳴り出したので駆けつける姿や、「百万年愛す」という台詞や、トニー・レオンの部屋をエスカレーターにしゃがんで覗き込むスチュワーデスや、その女の裸の背中に置かれたミニチュアの飛行機や、「チキンじゃなくてサラダに乗り換えただけ」というサンドイッチ屋での会話や、フェイ・ウォンのださいサングラスや、ホテルを去る時に崩しておかれたハイヒールや、何もかもが僕の生活のあちらこちらに顔を出すから困ってしまう。電車に駆け込む時はもちろん、チンピラに追われて電車に滑り込む金髪の姿がフラッシュバックする。噂ではウォン・カーウァイは村上春樹の小説からヒントを得ているらしいが、実際これも僕の生活にやっぱり顔を出してくるから本当に困ってしまう。
そこからどう抜け出すかが問題なのだ。
というと、ポール・ニザンの「陰謀」にあった「青春からどう抜け出すか.....」っていうフレーズを思い出す(ほんとうの記憶だろうか)。
そういえば昔は、部屋に女の子を呼んだらこの映画を必ず見ていた気がする。
DVDは持ってないからいつも借りていたんだけど。ワインなんか揃えておくより、そうするべきだったな。

失敗ばかりが続くと泣いてしまう。
でもこんな下らない悩みが24のうちに出来て良かった、と思おう。

じゃあ一番好きな小説は何?と聞かれたらまた困ってしまう。
一番好きな作家は高橋源一郎か村上龍だけど、一番好きな本は決められない。
特別心に残っているのは、「僕たちの失敗」だけど。
この小説のラストシーンで、オートバイでぶっ飛ばしたまま生垣に突っ込んだ主人公が「僕はまだ、死ねない」と口にするところの感触は、今ははっきり分かる。
ちょっと前までは、ジョン・バースの「旅路の果て」の最後の台詞、「どうしたらいいか分からない、って言ったんだよ」がお気に入りだったけど、もうそうも言ってられないから。

来週の今頃はザグレブで上手いビールを飲んでいるだろう。そうだったらいい。
こんな時に行ってしまったら帰ってくる保証が無くなる気がして寂しかったけれど、
今は、何としても帰ってこなきゃいけない気が強くしている。