2009年11月15日日曜日

雪、nobody



ほらほら見せなさいよ彼女の写真を、もったいぶってんじゃないわよ、私が調べてあげるから。
行きつけだというお蕎麦屋さんに入って、目当ての店員がいないって管を巻いてた女は僕にこうからんできた。

その時僕は素直な学生で、てんで抜けていたから、威勢のいい酔っ払った彼女の言うがままだった。

19歳か20歳の頃、憑かれたようにインスタント・カメラで友達の写真や、自分の写真を撮っていた。
女子高生みたいだな、デジカメを買えよ、現像代が高くつくだろう、よくそう言われた。

その頃つきあってた女は決して自分の顔を撮らせなかった。
いつだったか何枚か、自分の姿を撮らせたことがあったけど、出来上がったプリントはくれなかったな。
今年の冬に別れた女はレンズを向けても顔を背けなかった。
写真をちょうだい、雑誌に送るからと、言ってたっけ。

本に挟んだ写真を取り出して、僕は女の言葉を待った。

目の前にいる友達の顔を撮って、それからカメラを渡して、自分の顔を撮ってもらう。
そんな儀式めいたことをよくしていた時があって、変な趣味だと言われると、
こうすると分かるんだぜ、相手と俺が、どんな関係なのか、って嘯いてた。

蕎麦屋で酔いが回ってそんな話をしたんだ。

女は写真を見て気を良くしていたが、僕にとっては写真を覗き込みながら逐一変わる表情が面白かった。

付き合ってどれくらいなのよ。
半年かな。
あぁ、別れるわよ、あと三月の命よ。


ここまで書いてから、僕は友達の女の子に電話をした。
来週一緒にランチを食べようと約束してたから、焼き肉にしようぜと言いたかっただけなんだけど、
私この前彼氏出来たの、と告げられた。

どうしてそんなこと言うんだ、ひどいぜ。
私達、長い友達だから言うけれど、あなたの軽い口調は嫌いよ、いいところも知っているけれど、欠点だと思う。
あなたのことを知らない人は、何も言わないか、きっと離れていくわ。

今付き合ってる人はね、僕を君の結婚リストの一番上に入れてほしい、って言ったのよ、
びっくりしたわ。

ごめんと何回も言って電話を切った。

僕にはもう、決して言えない言葉を、
簡単に言える男もいるんだな。

「大切なことは一瞬で起きてしまうから、だから私達、その日に備えて、
 たくさん音楽を聴いて、一人部屋で読書しようと思ったの」

それって一体どういう意味なんだろう、訳が分からないよ。