2009年10月13日火曜日

この街の夜は



ホテルのロビーで知っている人の顔をみた気がして覗きこむと、彼女は僕の名前を呼んだ。

本当のことは言った方がいい、ただし嘘を少し、それともいっぱい盛り込んで。
でも、大切なことは言わない方がいい。

近くのカフェでコーヒーと甘いケーキを食べた。ライターがないのを見ると、マッチをくれた。
箱には「イヴは三つピストルを持ってる」と書いてあった。

笑いながら葉巻を吸う。

仕事を済ましてくると言った彼女を待つ間に、この街で一番賑やかな通りを歩いて公園まで行った。
去年の夏はこの場所を囲む壁に登って朝日を見た。
真下に流れる川の傍の店ではまだダンスミュージックが流れてた。

古本屋と画廊をめぐり、大道芸人に小銭を投げる。

ホテルのロビーに戻ると、彼女はソファに座ってた。
少し休憩しますか、もう出かけますか?

ここも有名な通りです、という言葉に連れられて、石畳の道を下る。
ジプシーバンドが演奏する屋台に入って、ビールを飲み、カツレツとサラダを食べる。

この魚はどこから来たの?あの川から?
これはうなぎみたいにね、とても細長くて、川の底に住んでるんです。
すごく柔らかくて、美味しい、きっと賢いんでしょう。
その通りですね。

後ろを振り返ると、雨が降ってた。この国に来て初めてみる雨だ。

でも誰も急いでないですね?
そうです、みんな家も近いんでしょう、でもみんな変わってます。
あなたは寒くないですか?

先週はひとりで家にいるのが嫌で街をぶらついたけれど、結局何もすることがなくって、
ビデオ屋でリバー・フェニックスのVHSを借りた。
タイトルは、さよならのキスもしてくれない、だった。それしか覚えてない。

あなたは結婚しないんですか?
そうですね、どうしてしないんでしょう。でもしないんですよ、きっと。
前に知り合った人は初対面で突然、子どもは何人いるの?って聞いたよ、びっくりだよね。

ほんとうですね。
でも不思議よね。

もう一杯飲みますか?という彼女に連れられて、また夜の街を歩く。
明るいのか、暗いのか、分からなくなってくる。
旅をしているからかな、ここは昼と夜が、とても違う気がする。匂いも、風も。

二人でライトアップされた教会を見る。
昔住んでた時は気づかなかった、とても大きいんですね。

家に帰るという彼女がタクシーに乗るのを見て、僕はホテルに戻った。

ベッドに入る前に、もう一度カーテンをあける。
オレンジ色の屋根が並んだ隙間から、大きな川と、そこにかかった橋が見える。

この街はすごくきれいと、そんな簡単な言葉を、
誰かに言ってほしかった。

2009年10月6日火曜日

いつか僕も







星になりたい、海になりたい