2010年3月5日金曜日

松山の梅



松山へ旅行をした。待ち合わせをした人に連れられて、砥部町の梅祭りに立ち寄って、紅白の梅を見た。

軒先に並んだ手作りの漬物や梅干しのうち梅の実を味噌で漬けたものに手がとまり松山から大阪に出航したフェリーの船室で誰も寝静まった後につまむ。外では時化た海と風の音がボイラーかベッドで寝てる彼女の鼓動か分からなくなるほどに耳を打った。窯を覗いた後に手を十分に洗い上着を一枚脱いで土をこねてろくろに乗せる。手本を見せてもらおうと目を凝らすけれど岩のようにろくろの真中に据えられた両手の中に土が隠され次第に一本の蛇のようになって隙間から伸び出た後はいわゆる茶碗の形となる時間を真似できるわけがない。松山城から車に乗って山を越えて小一時間も進むと十字路の隅にさりげなくあったうどん屋に入り釜揚げうどんをご馳走になる。熱い茹で汁に浸かった両手いっぱいほどの中太麺を少量の味噌で溶いて柚子とたぬきと小葱を足したタレに絡めて食べるのだけれど麺を前歯や上唇や舌の先で噛み切った時の熱をそれから一週間も過ぎた今になっても思い出す。帰りの車の中で店主は山肌に出鱈目な化粧を施す趣味があってそれにかかる絵具代を稼ぐためにうどん屋を開いたことを知る。四国に色々と美味いうどんはあるけれどあの店は次元が違うという言葉を聞いてその意味が分かることが年を経ることに近いと空想してしまう。

僕がこの短い旅行のことを一枚の景色に描くことが出来るのはもう少し先のことだろうか。



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