2009年4月4日土曜日

魂を救え!


タイトルはデプレシャンの映画から。

もう少し自分の話を続ける。

結局僕の人生なんて、若い人に救われることが多い。
少し前は、男なんて女の子に救われて、女の子に傷めつけられるだけ、なんてうそぶいていたけれど。

スニャのカフェにはもちろん暇を持て余したクロアチア人しかいなかったけれど、大声で自分達の話に夢中になっている彼らは、葉巻をふかした日本人の僕をたいがい無視した。
なんで俺はこんなところにいるんだろう、って感情に支配された僕はそうとう苛立っていて、出来る限り大きな声で注文をだしていたからかな。

この国にきた旅行者は、みんなとてもいい人だ、困っていたらすぐに助けてくれる、と言う。
それはあなたが女の子だから、あなたが優しい人だから、なんて当たり前のことは言わない。
あなたが男だから、あなたが優しくないから、なんて言えないし。

ある民族が、ある国民が、優しいなんて言ってもしょうがないだろうということだ。

もっといえば、優しいってどういうことだろう、ということ。
電車でおばあさんに席をゆずることや重い荷物を持っていたら助けてあげるなんてことは当然のことで、
優しさなんて特別言う必要もない。
(ということはそんなことすら出来ない人や、そんなことすらためらわれる場所は、最低も最低ということだけれど)

僕がカフェに求めていたのは落ち着くための椅子と渇きをいやすコーラと腹を満たすピッツァだったから、
しかも苛立ちをおさえるために葉巻をやたらめったらふかしていたから、しょうがないだろうけれど、
それでも3時間座って一言もクロアチア人から話しかけられなかったのは、まいったぜ。

正直、落ち込んでいたから、話し相手が欲しかったんだけどな。
一体俺はこんなところで何をしているんだろう、っていう気持ちは旅の間ずっと持っていたから、
その悩みを吹き飛ばしてくれる陽気さが欲しかったけど。

だからどうということもない。
欲しいものが手に入らない、なんてガキの台詞はもう言いたくない。

目的地で用をすまし、町の教会の前にあったアイスクリーム屋で時間をつぶした。

店の前のベンチには子供たちがいて、僕の姿をじっと見ていた。
「中国人」と言われた。

それはいつものことで、人種偏見なんて大したことじゃないぜ、ほんとの悲しみはもっと深いところにあるんだぜ、って思っているけれど、
やっぱりこんな場所で、こんな時は、その言葉を聞くと、つらくなってしまう。

僕は笑顔をつくって「日本人だよ、そんなこと言うんじゃねぇ」と返事をした。

さっさと駅に行こうかと思ったが、小学生ぐらいの子供たちが僕をにやにや笑いながら見ているのが嫌になって、隣のベンチでアイスクリームを食べた。

二人組の男の子が近づいてきて僕に話しかけた。
小学2,3年性くらいかな、同い年だろうけど、一人は体が大きくて、もう一人は小さい、でもとても仲が良いんだろう。
「どこから来たの?」「東京だよ」「中国人か」「違うよ日本だって」「そうだよ」「何してんの?」「記念館を見に行ったんだ」「ああ、そうか」「これからどうすんの?」「電車で帰るよザグレブまで」「気をつけてね」
こんな会話をして別れた。
かわいい子達だな、と思って、駅の方に向かって歩き出した。

公園で僕をじっと見てクスクス笑っていた女の子三人が僕の後をついてきた。
30メートルくらい離れて、キャッキャ言いながら追ってくる女の子を時々後ろを振り返って見ながら、こんな経験出来るもんじゃないぜ、なんて考えた。
駅まで行く道を間違えて、国道に入った時に、一番背の高い女の子が走って僕の目の前までやって来た。
「あなたどこから来たの、どこ行くの」「日本だよ、東京だよ、日本人だよ、汽車でザグレブに帰るんだよ」「ここで何してるの?」「記念館に行ってきたんだ」「あぁ、そうか」「ザグレブまで気をつけてね」
そんな感じで話した。

駅に逆戻りして、時刻表を見たら次の電車まで30分くらいあった。ベンチに座ってたら、さっきの男の子二人がやってきた。
「どこ行くの?」「ザグレブだって」「電車は?」「30分後」「OK、気をつけてね」
女の子三人組も傍で見ていた。

僕は愉快な気持ちになって、電車を待っている間、葉巻を何本もふかして、線路の上を少し歩いた。

乗ったのは夕方だったから、ザグレブに着いた頃にはもう真っ暗だった。
列車は何回かすごい音をたてて、駅に停車するたびに警官が走り回り、通路でフードをかぶった少年がタバコを吸っていた。

若い人が、たぶん好きなのは、というか、僕が彼らに救われたと思うのは、好奇心があるからだろう。
こんな場所に東洋人がいるなんて、おかしな話に決まっている、じゃあ声かけてみるか、っていう好奇心。

別に優しさなんて考える必要もなくて、好奇心さえあれば行動するし、誰かに手を差し伸べることだってするだろう。
それだけのことだけれど、この日は、スニャのカフェではなくって、ヤセノバッツの小学生がしてくれた。

途中の駅で、少年が二人の警官に肘をつかまれて列車から下ろされた。
今日のことは、僕の人生らしいぜ、と思う。

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